2009年4月9日木曜日

Gibson L-4(1917年製)


本家本元、Gibson のアーチトップ L-4 1917年製である。このギターをはじめて目にしたのは、半年くらい前になろうか。その独特な佇まいが脳裏に焼きついていた。リペア歴があるためか、価格は通常の同モデルより安めの設定。それでも 298,000円と立派な値段である。

3年近く前に、Rホールの L-4 を2本所有していた。共に、1930年代のモデルだったが、外観はサンバーストで見た目も渋く、よく鳴るギターだった。1本は友人に譲り、もう1本はオークションで手放してしまい、少し後悔していた。そんな時、この L-4が大幅に値下げされていることを知った。決算期ということもあり、目玉商品のひとつにしたのだろう。

こうなるともう、いても立ってもいられない。2週間ほど悩みながら、このギターのことを忘れようとした。それでも、どうしても脳裏から離れないので、覚悟を決めて取り扱い店に電話してみると、ギターはまだ残っているという。ホッとした反面、すこし重荷を感じた。

ギターは、実物を弾いて確かめてから買うべきである。高額なギターともなれば、余計にそうだ。以前、程度の良い Gibson L-7 をオークションで落札した際に、きっと長期間弾かれずに保存されていたのだろう、まったく鳴らないギターをつかんでしまった経験がある。

「実際に弾いてみて気に入らなかったなら、どこかに1泊して旅でもしてこよう」そう思ったら、気分がすこし楽になった。

仕事を終えた夕方、新宿から急行電車でショップのある本厚木に向かう途中、携帯からホテルを予約した。これでギターがNGだったとしても気をまぎらすことができる。

本厚木駅に到着して、南口から徒歩3分の楽器屋を目指す。本厚木は北口が栄えている街で、南口のほうはすこし寂びれている。ずいぶん遠くに来てしまった感覚にひたりながら、国道沿いにあるギターショップの扉を開けた。

電話で応対していただいたスタッフの方に声をかけると、早速 L-4のある場所に案内してくれた。アコースティックギターの一群のなかに、HOLDの札がついたこの L-4が置いてあった。

別室でチューニングされた L-4を手にとってみると、木は乾燥していて非常に軽く、ネックの反りもほとんど無い。トップには3カ所クラックを補修した痕が残っているが、丁寧にリペアされているらしく強度も問題なさそうである。

一番驚いたのは、この L-4が12フレットジョイントだったこと。30年代の L-4が14フレットジョイントだったので、この L-4もてっきり同じと思っていたのだ。

いざ、音を出してみると、その鳴りっぷりは尋常ではなかった。音が太くて音量が大きく、しかもただ大きく鳴るだけではなく、音色には深みがあって、個体差(木の材質と共鳴状態)によっておこる自然な残響感が何ともいえず心地良い。

正直、1世紀近く前のギターということで、木は乾燥しきって瑞々しい音は期待できないだろうと思っていた。19世紀のヨーロッパ製ギターの流れを汲む、オーバルホールとインレイのデザインや、クラシカルな木製のサドル一体型ブリッジなど、その高貴な佇まいからは、まったく想像できない鳴りっぷりである。

ネックは太めだが、三角型に丁寧に削られており、握った感じも手によく馴染んで、演奏上の負担はまったくない。フレットも新しく打ち直されており、音がビビる箇所も見あたらない。鳴りもプレイヤビリティーも申し分の無い、素晴らしいギターだ。

アーチトップのボディと、約1世紀という長い時間を経て醸し出される独特の色合いは、バイオリンなどの古楽器にも通じる風格を持っていて、腕の良い職人を持ってしてでも再現できるような雰囲気ではない。存在そのものが歴史になっているのである。

1917年といえば、大正6年にあたる年で、人間にしたら92歳。奇しくも、昨年の4月に亡くなった父と同じ歳だ。これもきっと何かの縁なのだ...。高い買い物をする際の “後ろめたさ” を今回感じなかったのは、そんな理由もあるのだろう。一生物の楽器にするため、普段は使わない長期のクレジットを利用した。(お金に余裕がないというのが本当のところなのだが...)

L-4は、当時のおそらくオリジナルと思われるハードケースに入れてもらい、新品の弦を2セットサービスしていただいた。ケースまではメンテナンスされてないので、当然ながらボロボロである。歴代のオーナーたちが、コレクションではなくギターを大事に弾き込んできたことをこのケースが物語っていた。

L-4 の音はコチラで聴けます。

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