2011年1月15日土曜日

映画「ノルウェイの森」

 映画「ノルウェイの森」を観てしまった。公開したらすぐに行くつもりだったのに、機会を逃してしまった上に、賛否両論の感想を読んでしまったのがいけなかった。自分なりに思い入れのある小説だっただけに、観た後の虚脱感を味わうのが嫌だった。
でも、友人の脚本家に勧められて、その気持ちは変わった。世評など気にせずに、まずは観に行くべきだ。新宿紀伊国屋書店の地下でパスタを食べ、ジャズ喫茶DUGでコーヒーを飲んだ後、あまり期待をせずに、新しくなった新宿ピカデリーへと向かう。映画館は混んでいて、すこし早めに行ったのに一番前の席になってしまった。まあ、いいか。

 映画は、主人公ワタナベの友人、キズキの自殺シーンからはじまる。序盤から痛々しい展開だ。これから続く「鬱蒼とした深い森」への導入部として、ここでひとつの覚悟を観客は強いられる。この後、直子との別離、緑との出会い、寮での生活、阿美寮への旅...と、小説の核となるストーリーが淡々と描かれるが、特筆すべきなのが主人公の曇った内面や、直子とのこわれゆく関係をファンタジックに印象づける挿入曲だ。

 これらの印象的な音源は、ドイツのロックバンド CAN の異なるアルバムから3曲選曲されている。エンドロールに流れるビートルズの「ノルウェイの森」以上に、の映画になくてはならないハマり曲となっている。静謐で重厚なジョニー・グリーンウッドによるサウンドトラックも、抒情的な映像とよくマッチしていて印象に残った。

 原作小説のイメージが強すぎて、それと比較されてしまうのは、多くの映画が抱えてきた宿命であり、仕方がないことかもしれないが、先入観をもたずに観てみることも大切だ。青年期にこの小説を読んだ人にとっては、そのなかで語られるモノローグの断片は、自分自身の恋愛体験と融け合って記憶の底にしまわれている人も多いのではないだろうか。この映画は、良い意味でも悪い意味でも、その封印されていた蓋を開けてくれる映画だ。甘美で切ない、傷ついたような“あの想い”が甦ってくる映画だ。