2011年5月29日日曜日

YAMAHA Dynamic Guitar No.70 リペア記 その1

つい先日入手した、ヤマハのダイナミックギター No.70 をリペアしております。このギターは輸出仕様のもので、時期的にはダイナミックギターの第一期(1960年代初期)にあたります。国内モデルだった No.8 をマイナーチェンジした海外向けのギターです。


リペア前は、ブリッジまわりをニカワで補強したあとがあり、ブリッジも浮き気味でした。丸棒のサドルはφ5mmあり、弦高が非常に高い状態です。




また、ネックヒールもニカワで補強してあり、乾燥で補強部分に亀裂が入っている状態でした。ネック自体は真っすぐで、反りはほとんど無いようです。

木製ナットの6弦部分にも欠けがありました。0フレット仕様なのでこのままでも弦は張れますが、ここは後々リペアしてあげようと思います。




まずは、ブリッジを剥がして再接着することに。ドライヤーでブリッジを温めながら、スクレイパーを差し込んでいくと、ニカワは簡単に剥がれました。さらにスクレイパーをブリッジの奥まで差し込んでいくと、どうしても剥がれない場所にぶち当たりました。

おそらく、ニカワで補強する前に、木工用ボンドなどを流し込んだのでしょう。仕方なく、圧をかけてスクレイパーで無理やり剥がすことに。案の定、トップのスプルースがめくれてしまいました。


こうなると、ブリッジの接着面を平らにしなくてはなりません。ホームセンターで買ってきたスプルース材をヤスリで削り、削った木の粉をタイトボンドと混ぜ合わせ、めくれてしまった部分に塗っていきます。


接着剤が乾いてから、サンドペーパーを“はがし(もんじゃ用のヘラ)に巻いて、平面を出していきます。ほぼ平面になったところで、取り外したブリッジを当ててみると、長年付いた癖のせいか一ヶ所だけ空胴があります。

この空胴部分に、ふたたび木の粉とタイトボンドの接着剤を盛って、サンディングを繰り返しながらなるべく水平にしていきます。かなり根気のいる作業です。

次に、ブリッジのまわりに残ったニカワの痕を剥がしてから、ブリッジの接着面をマスキングしてクリアーラッカーを吹きました。

この後、ラッカーが乾いてから、ブリッジまわりが水平になるようにポリッシングしていきます。元々のラッカー塗装と同化するまで、根気よく磨かなければなりません。かなり骨の折れる作業です。

2011年5月27日金曜日

Gibson L-00(1930'S)リペア記 その5

ペグの取り付けが終わったので、あとは弦を張れば今回のリペアは完了です。ペグボタンにも仕上げにクリアーラッカーを吹いているので、塗装が完全に乾くまで2日ほど待ちました。ヴィンテージのペグボタンのように、自然なアメ色になるとよいのですが、どのように風化していくのか楽しみです。
弦は、ダルコのEXライトゲージにしました。L-00 のようなスモールサイズのギターは、ブリッジにかかるテンションも高く、ライトゲージではすこし負担が大きいように思います。

弦を張って音出ししてみると、届いたばかりの時とはあきらかに違う音になっていました。5〜6弦に感じられたこもりが消えて、透明感のあるクリアーな音に変わっているのだから不思議です。

強めにストロークを弾いてみると、ボディ全体が振動して響きわたっているのが身体に伝わります。これが、1930年代のギブソン・フラットトップの音なんだ!と実感しました。


三角ネックは握ったときの角度が独特ですが、トラスロッド入りの構造なので決して太くはありません。弾きこむほど手に馴染んでくる感じです。

1930年代の L-00 で特徴的なのは、ボディの胴厚が下にいくにつれて厚くなっていること。これは、1990年代後半に復刻された全体的にボディが厚い L-00 や、全体にボディを薄くした現行品の Blues King とは、あきらかに異なる構造です。

このボディ厚がテーパーになっているデザインと、内部のブレイシング構造、そして当時使われていた木の材質や枯れ具合などが相まって、ヴィンテージ L-00 の素晴らしい音があるのではないでしょうか。

2011年5月26日木曜日

Gibson L-00(1930'S)リペア記 その4

L-00 のロゴ・リプレイスメントの続きです。まずは表面に塗り重ねたクリアーラッカーを軽くサンディングしてから、ポリッシングで磨きあげます。側面のマスキングを取り外すと、塗装面の縁が直角になっているので、ここもサンディングとポリッシングで面取りしてあげます。

これで、ヘッドのリプレイスメント作業はひととおり終了です。

次はいよいよペグの取り付け。先日加工したオープンバックのペグですが、木と密着するプレート面に金具の凸面が出ているのが問題でした。このまま取り付けると、ヘッド裏の木面を傷めることになります。元々付いていた木面のプレート痕ともピッタリ合いません。

考えた結果、1930年代クルーソン・オープンバックのレプリカを購入することにしました。届いたペグを見てみると、ニッケルの金属パーツがレリック加工されている点は良いのですが、ボタンが真っ白でどうにも雰囲気が合いません。3日ほど日に焼いてみましたが変化が無かったので、ボタンにもアイボリー塗装を施すことにしました。

次はブッシュの埋めこみです。ペグ穴の内径をノギスで測ったところ、0.02mmほど穴を広げなければならないことがわかりました。無理に叩きこむとヘッドの木が割れる可能性があります。今回は慎重を期して金属リーマーを調達して、穴を広げることに。リーマーで内径を広げた後、ブッシュにポンチを当て、ハンマーでびっちり埋めこみました。

左の写真がレプリカのオープンバック・ペグを取り付けたところ。なかなか迫力があります。リプレイスメントといっても、できるかぎり元の状態に戻してあげるのが今回の目的です。試行錯誤しながら、1930年代というギブソンのゴールデンエイジ時代にギターを戻していく作業は、手間隙もかかりますが、それはそれで楽しいものです。

これで、ヘッド部分のリペアがすべて済みました。完璧に元の状態に戻すことは不可能ですが、本来あるべき姿に可能なかぎり戻してあげることで、そのサウンドも含め、楽器が持っていた本来の性能に近づけることができるのではないかと思います。楽器、とくにギターやヴァイオリンなどの木製楽器は奥が深いですね。

2011年5月14日土曜日

Gibson L-00(1930'S)リペア記 その3

Gibson L-00 リペアの続きです。ゴシック体のギブソンロゴにリプレイスメントされているヘッド。埋め込まれたパールのロゴは、削れば取り外すこともできますが、このインレイがギブソン工場でリフィニュッシュされたという証しでもあるので、残したまま再塗装することにしました。

サンディングシーラーを塗布した後、ヘッド全体を水平に磨き上げてから、黒のラッカー塗料(ニトロセルロース系)をスプレーで吹きました。サンディングシーラーのおかげで、ほぼ凸凹もなく吹き上がっています。ラッカーは5回ほど塗り重ねております。この状態で一週間ほど放置。

塗装が乾いた後、ラッカー塗装の際についた塗装面の粒子をポリッシングで磨き上げたら、いよいよロゴ入れです。失敗したらすべて最初からやり直しになってしまう、最もデリケートな作業です。もともとのロゴは、シルクスクリーンで印刷されているので極薄です。シールでは厚みが出てしまうので、型紙の上から塗装することにしました。シルク印刷と原理は同じですね。

ロゴ入れが終わった状態です。色は風化して黄ばんだ感じにしたいのでアイボリーにしました。厚塗りはしたくないので、今回は一回塗りのみ。半乾きの状態で型紙を取り外すと、塗装したロゴの外周にエッジがたってしまいました。ちょうど、ステッカーを貼ったような感じです。

また、型紙の接着剤が影響したのか、ラッカーと反応してしまい、型紙を剥がした痕もくっきりと付いてしまいました。このままでは、今までの苦労も水の泡です。シルク印刷のような肌触りになるように、塗装面全体を慎重にサンディングして、仕上げにポリッシングで磨き上げました。

しばらく雨の日が続いてましたが、久しぶりに晴れたので、最後の塗装膜となるクリアーラッカーを吹きました。こちらもニトロセルロース系のラッカーです。乾燥してから少しずつ塗装を繰り返し、6回ほど塗り重ねました。

右の写真では、太陽光に反射して細かいスプレーの粒子が付いているのがわかります。完全に乾燥したら、サンディングとポリッシング加工を施し、表面をつやつやにしてあげる予定です。

2011年5月8日日曜日

Gibson L-00(1930'S)リペア記 その2

L-00 のペグ穴補修からの続きです。タイトボンドで埋めた楊枝を喰い切りでカットした後、彫刻刀で余分な木片を切り落とします。ペグを取り付ければ見えない箇所ですが、剥離防止のため同系色のラッカーで塗装してから、クリアーラッカーでシーリングしました。


塗料はカンペハピオの工作用ラッカーを使用。
成分はニトロセルロースと合成樹脂(アルキド)なので、ちょっとした補修に便利です。

続いて、ヘッドの剥離作業を行いました。油性と水性のラッカーやニスも剥がせる塗料はがし液を全面に塗った後、半乾きの状態でスクレーパーで塗装を剥いでいきます。半分ほど剥離できたら、途中からサンドペーパーに代えて塗装を剥いでいきます。木のブロックやゴム当てを使ってペーパーが水平になるようにするときれいに剥離できます。

左が剥ぐ前の状態、右が剥いだ後の状態です。塗装を剥いでいる間は、美術品の塗装を剥がしているような気分になります。物品の素性が露になる、スリリングな瞬間です。このギターの場合は、厚みのあるパールインレイを埋め込むために、ロゴ回りをくり抜いてありました。

塗装の剥離が終わった段階で、リフィニュッシュ用の塗料を買いにいきました。木の目止め用に「との粉」、吸い込み防止用に「セラックニス」、塗装面を水平にしてラッカーをきれいに塗るための「サンディングシーラー」、あとは塗装用のラッカースプレーと、仕上げ用のクリアーラッカーです。

ヴァイオリンの塗装にも使われるセラックニス以外は、サンディングシーラーも含めてすべて同じ成分の塗料にしました。ニトロセルロースと合成樹脂(アクリル)のスプレーです。スプレー式でなければ、ニトロセルロースと合成樹脂(アルキド)の塗料もあるのですが、今回は作業効率の面からスプレータイプを選びました。

右の写真が、との粉で目止めした表面にセラックニスを塗布した状態です。刷毛を使って2度塗りしてから軽くサンディングした後、サンディングシーラーを塗布します。

左の写真がサンディングシーラーをスプレーした状態です。この後、3回塗り重ねてから、水平を出すためにペーパーと当てゴムを使ってサンディングしました。ヘッドの側面側にあった凹みも、との粉とサンディングシーラーできれいに埋まっています。

2011年5月7日土曜日

Gibson L-00(1930'S)リペア記 その1

1930年代のプリウォー Gibson L-00 にあこがれて、ついに本物を入手してしまいました。以前、ギブソン工場でリペアとリフィニュッシュを受けている個体で、ヘッドはパールのゴシックロゴにリプレイスメントされているとのこと。商品写真は見たものの、実物が届くまではどんなギターなのか見当もつかず、冷や汗ものでしたが、3週間くらいしてやっとアメリカから荷物が届きました。段ボールを開封すると、頑丈なハードケースが出てきて、オヤッ?と思いました。With Case とは書かれてなかったので、裸で送られてくると思っていたからです。恐るおそるケースをソファの上にのせ蓋を開けてみました。

1930年代の風格たっぷりのギターが入っていたのでホッとしつつ、さっそく付いていた弦をチューニングして音出ししてみました。ヴィンテージの L-00 がどんな音か興味津々でしたが、やはり噂に伝え聞く通り、音量があって弦の振動がボディ全体に共鳴して鳴っている感じです。


気になるリペア内容は、以下の点でした。
1.全体をリフィニュッシュ
2.ヘッドをパールのギブソンゴシックロゴに換装
3.ペグをクルーソンの3連カバー付きと交換
4.バックとサイドの割れを内側から当て木で補強
5.サウンドホール回りのトップ裏を当て木で補強

このままでも使えるのですが、やはり1930年代の仕様にリプレイスメントしないと気が済みません。まずは弦とペグを取り外してボディ全体を磨き上げました。

ペグは1930年代のギブソンらしく、オープンバックの3連クルーソンに交換したいので、ペグ穴を楊枝で補強しつつ、事前に入手しておいたオープンバックのペグ(1960年代のギブソン・メロディメーカーに付いていたもの)を加工しました。ペグボタンがいかにもチープだったので、アメリカのショップから輸入したクルーソン製の白ボタンと交換する作業です。

このボタン交換にはかなり手こずりました。元々のボタンを半田ごてで溶かして軸から取り外すまでは良かったのですが、ボタンを真っすぐ芯に埋めるのはかなりコツのいる作業です。万力で圧着しても軸がずれるので、結局ハンマーで叩くことに。この作業だけで5時間くらい要しました。



左の写真が、加工後のオープンバック3連ペグ。1930年代の L-00 のヘッド裏は、テーパーヘッドという先に向かって薄くなる構造なので、3連ペグの金板はテンションをかけるとゆがむくらいの剛性でないときちんと密着できません。メロディメーカーに付いていたこのペグは大丈夫そうです。ちなみに、オープンバックならクラシックギター用のペグが応用できそうですが、アコギ用とは軸の間隔が異なるので取り付けできません。他のアコギ用のオープンバックも複数試しましたが、ビスや金板の位置が合わず、やはりギブソン用の古いオープンバックを探すのが一番だと思います。